大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和45年(ネ)1344号 判決

理由

一、原判決添付別紙目録記載の土地(以下本件土地という。)が、もと訴外小原嘉吉の所有に属していたこと、同人は昭和一〇年五月二二日死亡し、その子である控訴人、被控訴人、訴外小原定義、同露崎ヒサ(旧姓小原)および同浅香サキ(旧姓同)の五名が本件土地につき共同して遺産相続をし、同年七月六日その旨の所有権移転登記を経由したこと、控訴人、訴外小原定義、同露崎ヒデおよび同浅香サキの右各共有持分につき、東京法務局足立出張所昭和一〇年八月一九日受付第一一八六一号をもつて、同日付売買を原因とする被控訴人のための共有持分移転登記が経由されていることは、いずれも当事者間に争がない。

二、控訴人は、右のごとき共有持分の売買契約は存在せず、右移転登記は虚偽の申請によりなされたものである旨主張するので按ずるに、《証拠》を総合し、これに弁論の全趣旨を参酌すれば、小原嘉吉は、昭和八年一二月一九日株式会社東京府農工銀行より、金八〇〇円を、元金は昭和九年一一月二〇日まで据置き、その翌日より昭和二四年一一月二〇日まで年賦なしくずしの方法により支払うこと、利息は据置期間中、年賦償還期間中を通じ年六分五厘とすること、遅延損害金は日歩四銭とすることと定めて借受け、右債務を担保するために、本件土地に順位一番の抵当権を設定したのであるが、昭和一〇年五月二二日に死亡したので、右債務を控訴人、被控訴人ら五名の子が相続したこと、当時未成年であつた小原定義、浅香サキおよび控訴人以上三名の親権者母小原むめとすでに成年に達していた露崎ヒサは、右四名の本件土地の共有持分を長男である被控訴人に売渡し、被控訴人をして、その代金中より右四名が東京府農工銀行に負担する前記債務を順次支払わせることとし、昭和一〇年八月一九日被控訴人との間において、右四名の共有持分を代金一、四九二円で被控訴人に売渡す旨の売買契約を締結し、これに基づいて前記共有持分移転登記手続を経由し、被控訴人は、右約定にしたがい、自己固有の負担分をもあわせ、昭和二八年九月一四日までに東京府農工銀行およびその後身株式会社日本勧業銀行に対し、右元利金全部の支払をすませたこと、なお、被控訴人は、他の四名の負担すべき相続税をも支払つたことを認めることができ、原審における控訴人本人尋問の結果中右認定に反する部分は、前掲各証拠に照して措信し難く、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

しかして、旧民法第八八六条によれば、親権を行う母が未成年の子に代つて不動産に関する権利の喪失を目的とする行為をなすには親族会の同意を得ることを要するところ、小原むめが未成年の控訴人らを代理して前記売買契約をするについて正式な親族会の同意を得たことを確認するに足る証拠はないけれども、控訴人においてこれを理由として前記売買契約を取消したことは控訴人の主張、立証しないところであるから、右契約は有効に存続するものといわなければならない。

三、控訴人は、また、仮に小原むめが控訴人らを代理して控訴人らの共有持分を被控訴人に売渡したとしても、それは自己の債務の弁済のためかまたは生活費に充当するためにしたのであるから、利益相反行為に該当し、無効である旨主張するが、小原むめが、本件土地の売買代金をもつて、自己の債務の弁済のためあるいは生活費に充当するため前記売買をしたものであることは、これを認めるに足る証拠がないので、右主張は採用できない。

四、なお、仮に前記売買契約が民法第一二六条の期間内に親族会の同意がなかつたことを理由として控訴人により適法に取消された事実があつたとしても、《証拠》によれば、被控訴人は、前記売買契約がなされた昭和一〇年八月一九日以降二〇年間本件土地を所有の意思をもつて平穏かつ公然に占有していたことが認められるから、昭和三〇年八月一九日の経過により本件土地に関する小原定義、浅香サキおよび控訴人の共有持分を時効取得したものといわなければならない。

五、以上の次第で、本件土地につき控訴人の共有持分権は認められないので、控訴人の本訴請求は失当であり、原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないから、これを棄却

(裁判長裁判官 浅賀栄 裁判官 川添万夫 秋元隆男)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例